2016年4月9日土曜日

かりろく番外編・花まつりの翌日に。

一体何の話だっけ、というくらい間が空いてしまいましたが、
お約束の「かりろく」番外篇をお送りしたいと思います。
(そして申し訳ないことに、囲碁の話題は一行のみです…)

おまけの話にしては、またしても長いながーい文章ですので、
お時間のある時にでも読んで頂けましたら幸いです。


さて。前回、「吉備大臣入唐絵巻」において「下剤」として用いられた
「かりろく丸」は、実在するお薬ではあるものの、実際の効能は
正反対の「止瀉薬」でした、というお話を書きました。
(身近なお薬でいえば、正露丸のようなものでしょうか)

実はこの「かりろく」、とても由緒あるお薬のようで、
正倉院には、鑑真さんがもたらしたといわれる「かりろく」
現在まで伝えられているそうです。
(勿体なくて使えなかったのかな…?)

更に遡ると、仏教の原始経典である「増一阿含経」にも登場するのだとか。
(そういえば「阿含・桐山杯」という早碁棋戦がありましたね)

「かりろく」に関する記述に引用されていた経文は漢語のままだった為、
下っ端にも理解できるような、和訳されたものはないのかしら…と
検索してみたものの、残念ながら見つからずじまい。

しかし、検索中(下っ端にとって)面白いお話をいくつか拾いまして、
せっかくなので、おまけ話としてぜひご紹介したい…というのが、
今回の趣旨でございます。


さて、ここで唐突に第一問!

Q.「お釈迦さまの死因とは、一体何だったでしょう」

チクタク、チクタク…シンキングタイムの間に、ひとつ小咄など。

   昔むかーしに読んだ小説の一節なのですが、
   お釈迦様の入滅された日を問うた主人公のお友達が、
   答えを聞かれていわく、「8月4日」と。

   主人公は素直に納得してしまいますが、本当の答えは「2月15日」

   どういうことなのかと種を明かせば、
   お釈迦様のお誕生日「4月8日(花まつり)」なので、
   ひっくり返して「8月4日」…さかさま…しゃかさま…お釈迦様。

   …。


…どっと疲れたところで、シンキングタイム終了。
正解は、ジャジャーン…!(昭和的擬音)

A.「(一説によると)豚肉かキノコの食中毒」

ええっ。お釈迦様って菜食主義じゃなかったの…?
初耳だった下っ端は、ものすごーくびっくりしました。

仏教と言えば、(僧兵なんていう存在もありましたが)
基本的に不殺生のイメージ。ダメダメなお坊さんを指す
生臭坊主、なんて言葉もありますし。

でも、お釈迦様ご自身は「お布施は何でもありがたく頂こう」という
主義だったらしく、お肉もお魚も召し上がられたそうです。

生き物が可哀想だから、という理由でヴィーガンを通している人には、
全く共感を覚えない下っ端としては、このお釈迦様の考え方は好きだなあと
思ったのでした。




そのことと「かりろく」にどういう関係が、と疑問にお思いでしょうが、
ここでもう一度「かりろく」正しい効能を思い出してみましょう。
そう、止瀉薬…ゆるゆるお腹をなんとかしてくれるお薬です。

サルモネラ菌やキノコ毒の時には、むしろ飲んではいけないのでは
ないのかと思いますが、気はココロ、激しい食中りに苦しまれている
お釈迦様に「かりろく」を差し上げようとした方がいらっしゃいました。

誰あろう、お釈迦様のお母様である「麻耶夫人」その人です。

お話によりますと、天界の麻耶夫人は、涅槃に入る息子に向かって
「かりろく」の入った袋をぽーいと投げ与えます。
(それもどうなのかと…)

ところが、袋は鳥の群れに阻まれて、お釈迦様の臥床の四隅に
2本ずつ植えられていた沙羅の木に引っかかってしまいます。

…だ、誰か取ってあげてー;

困ってしまった麻耶夫人は、袋を取ってくれるよう、その場にいた
「ある者」に頼むことにしました。その「ある者」とは…。

入滅の様子を表した「涅槃図」には、横たわるお釈迦様を囲んで嘆き悲しむ
①「弟子」たちや、図らずも食中毒の原因となったお料理を差し上げた
②「鍛冶屋のチュンダ」さん、日頃は食べたり食べられたりする関係の
③「動物」たちが、恩讐を忘れ殊勝に集まっている様子、などが描かれています。




…はいっ、ここで第二問(ジャジャン!)。

このミッションが失敗に終わるのは明々白々ですが、引っかかってしまった
「かりろく」を取りに行ったのは、果たして①~③の中の誰でしょうか!

(蛇足ですが、「平家物語」に出てくる沙羅(双樹)「ナツツバキ」で、
樹高は10mほど。涅槃図に描かれる「沙羅」は建築材に使われるラワンの仲間で、
樹高30mにもなるそうです…むり!下っ端には無理!)

前回、全然関係のない読書から「かりろく」が実在することを知った下っ端ですが、
実は今回も何の気なしに読んでいた本から以下に引用するお話を見つけて、
読書の神様にちょっぴり贔屓されたかも、と思ってしまった、
正解に関する一文をご紹介したいと思います。


「お釈迦様の病が重くなった時、天から薬を下されたのに、
くろもじの木にひっかかってしまった。

そこで高い所へ駆け上るのが大層得意な鼠が

その天来の薬を取ってくるという大役を仰せつかった。

ところが木に登っていく鼠を見た先生方(下っ端註:猫のこと)のご先祖は、
事もあろうに、鼠がそんな大役を帯びているものとはつゆ知らず、
たちまちにその鼠を捕らえて食べてしまったのだというのです。

そのためくろもじの木は何年経っても大木になれない運命を背負わされ、

猫は悪性の動物として忌み嫌われお釈迦さんに近付くことを許されなかったと、
こういう訳なんでさあ」

(佐藤孝さん著「悟り猫」より引用)


ということで、正解は③「動物(ねずみ)」でした!

上記では和菓子を頂いたりする時の楊枝に使う「くろもじ」の木と
なっておりますが、まあ、(30mにもなる)沙羅の木では、成長度合いに
齟齬が生じるため、キャスティングが変更されたのかもしれませんね。

それはさておき、猫 登 場 、ですよ!

ここで薄っすら察してくださった方もいらっしゃるかもしれませんが、
下っ端としては、むしろここからが本題です。

…なのですけれど、いい加減長すぎなので、今回はここまで。

次回はなるべく今月中に「ねこのかお開店2周年特集」を上げたいと思います!

その後で「おまけのおまけ回・今度は猫篇!」をお届けしたいと思いますので、
お時間のある時にでも、お気に入りのおやつなどつまみながら
読んで頂けたら嬉しいです。

(ただ書きたいだけ、とも言いますが…すみません;)

それではまた次回!

(author:下っ端)

2016年2月12日金曜日

謎の「かりろく丸」

以前、「吉備大臣入唐絵巻(きびのおとどにっとうえまき)」を読んで
不思議に思ったことを、Twitterに上げたことがありました。




内容をかいつまんでご説明しますと、物語の主人公は
遣唐使の吉備真備さん。

唐の玄宗皇帝に重用された彼は、他の官僚たちの妬みを買い、
これでもかと無理難題を課せられることになりました。
クリア出来なければ、ご飯抜きで幽閉されてしまいます。

そこへ現れまするは、同じ憂き目にあって幽鬼と化してしまった
阿倍仲麻呂さん。 (*1)

陰陽師で有名な、阿倍晴明さんのご先祖だという説もある
仲麻呂さんは、お空だって、ひとっ飛び。 (*2)
スーパーパワーで、真備さんを強力にサポートしていきます。

絵巻の第五・第六段では、囲碁未経験者なのに、唐の名人と
勝負させられることになった真備さん。絶体絶命の大ピンチ!

しかし、若くして科挙に受かるだけあって、真備さんも只者ではありません…。

天井の格子を碁盤に見立てて、仲麻呂さんに一夜漬けで特訓してもらい、
いざ対局に臨みますれば、結果はなんとジゴの様子。

そこで満足しておけばいいものを、どうしても勝ちたかったのでしょうか、
真備さんは黒石を1つ盗って飲み込んでしまいます。
(当時は上手が黒を持ちました)

当然のことながらバレまして、証拠を出せとばかり、強力な下剤である
「かりろく丸」を飲まされてしまうのですが、なんとか頑張って堪え、
勝つことが出来ました!

…という、英雄譚にしては若干とほほな感じのお話です。

ここで疑問に思ってTwitterに書き込んだのが、
「飲み込んだのは、一体どの石だったの?」問題。

盤上の石を取ったら辻褄が合わなくなりますし、かといって
中国ルールではアゲハマは勝敗に関係ありませんし…
真備さんが必死にお腹に留めたのは、どこの石なの!?

(そもそも、特殊なセキが発生しない限り、中国ルールではジゴにならない
らしいのですが、下っ端には難しくてご説明できないので、割愛いたします;)

これは未だに謎のままなので、どなたかご教示頂けると嬉しいです!

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さて、すっかり前置きが長くなってしまいましたが、
ここからようやく本題に入ります。

前述の呟きからしばらく経ちまして、下っ端が
山本兼一さん著「ええもんひとつ~とびきり屋見立て帖」という、
時代ミステリーを読んでいた時のことです。

作中、新選組の隊士から誰にも見られてはならない手紙を預かった
主人公の奥さんは、手紙を入れた茶器に仕覆を着せ、誰かが開けたら
すぐに分かるよう、その緒を「かりろく」に結びます。



…おや、何やら見覚えのある名前が出てきましたね。
続けて、「かりろく結びとは、南国の果実を模したもの」との説明が。

かりろく…かりろく…。

入唐絵巻の詞書を読んだ時は、単なる薬の名前としての認識だったので、
絵巻と小説の「かりろく」が頭の中で繋がった瞬間、
実在するものなんだ!と、とてもびっくりしました。

しかも、南国果実とは。



ここで下っ端の頭に浮かんだのが、南国フルーツ盛り合わせ。
幕末でいう南国とは、ベトナムあたりのことでしょうか。
ライチにマンゴスチン、ランブータン♪

でも、下剤に使われるほど強力にお腹が緩くなるような
フルーツに心当たりはないけどなあ、と思いながら
「かりろく」を検索してみたところ…。

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【訶梨勒(かりろく)】
インド原産のミクンシ科。ミロバラン。
タンニンやケブリン酸を含み、収斂・駆風・咳止め・
声枯れ・眼病・止瀉薬として古くから知られる。

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…どう見てもフルーツではなかったことに少々落胆しつつ、
効能書きの最後を二度見。

「止瀉薬として古くから知られる」

ししゃやく…は、お腹のゴロゴロを宥めるためのお薬なような。
でも、かりろく丸は、真備さんが飲み込んでしまった碁石を
出させるためのお薬でしたよね。これでは逆効果なのでは…?

そこから更に調べてしらべて、いつも通り囲碁とは全く関係のない方向へ
どんどん脱線していくのですが、長くなりましたので、
続きはまたの機会にしたいと思います。


今回も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました♪

(author:下っ端)